この物語はフィクションです

実在の人物、団体とは関係ありません。

所感

いま、一緒に住んでる男がいる。

数年の交際期間とほぼ同じだけの期間、彼とは一緒に住んでいる。

彼とは随分前からセックスレスだ。

多分、彼はそもそもあまり性行為自体を望んでいなくて、交際当初は多少あったソレも今となっては皆無だった。

残念なことに私には性欲があって、相反する彼の欲のなさとはバランスが取れなかった。挙げ句の果てには「自分は相手できないから他所の男に抱かれてきて」くらいのことを言われる始末で、本当にどうしようもなかった。このことを思うたび、ひどく惨めで自分がふしだらなような気持ちになる。

わたしの名誉のために言っておけば、特殊なことを要求しているわけではないつもりだった。ただ月に1度(おわりの方はもっと頻度を落としていたが)そういう機会を設けてもらえないかと懇願はしていた。しかしそれはきっと、私の想像するプレッシャーの域を超えていたのだろうな、とは思う。悪意があるようには見えなかったから、きっとなにかしら抱けない理由があって、彼も苦労していたのだろうと思う。

交際相手以外と身体の関係を持つことには抵抗があった。抵抗があったから、正直嫌だった。というか本当に嫌だった。信じられない。何言ってるんだこの人と思って、多分何回か泣いたと思う。

でももう30歳も手前になって、こんなことで泣いていてもしょうがない。破棄になったとはいえ、一度は結婚を覚悟した相手だし、私のみっともないこの欲と彼の価値観はマッチしているし、迎合するほか私たちに平穏はないと思い、2年かけて己の価値観を変えた。もともと容姿には拘らないタイプだったから、相手を探すのには苦労しなかった。あとは自分の中にある嫌悪感と罪悪感だけを除いて、とりあえず楽しく過ごして、発散して、また元の生活に戻れば良いだけだった。

何度か失敗もした。自分が相手をひどく気に入ってしまうケースと、相手が私に交際を迫ってくるパターンがあった。どっちも幸せな未来なんてないことはわかっていた。少なくとも後者は全て断っていたし、交際に繋がったレアケースもあったが勿論うまくいくはずもなく、私と彼の同居生活はどうにか均衡を保っていた。

今年の2月くらいには、もう罪悪感も嫌悪感もほとんどなかった。性格から向いていないのはわかっていたが、それでも風俗で働くのがベストなのではないかと思うくらいだった。


たまにそんな話を持ち出すと、それは撤回したとか、やっぱり嫌だとか、そんなことを言われることがある。

私が捨ててきた貞操観念とか、倫理とか、大事にしたかったものを2年かけて捨てて君との生活を守るために必死に鈍化させてきたのに、私の記憶には曖昧な君の撤回が罪悪感だけを復活させた。失ったものを回復させるのは無くす期間の倍は必要なんじゃないかと、そう思う。


彼とのことは面白おかしく人によく話す。

大体ウケる。

たまに神妙な顔でそんなに好きなのと、本当にそれで良いのと、幸せなら良いんだけどと、聞かれる。

彼のことを好きか問われたら、分からないけど、彼と過ごす時間は幸せだなと思うことが多い。本当にこれで良いのかなんて、誰にも分からないと思うから、これで良いんだと思う。でもたまに、本当にたまにこんな話誰にもできなくてどうしようもなく押しつぶされそうになることがある。


幸せってなんだろうと思って検索したら、なんだか違うワードで検索されて「寵愛」と出てきた。

強がるなと言われても何も思わないのに、強がってばかりじゃしょうがないと言われたことが頭から離れない。ほんとうにしょうがない。