この物語はフィクションです

実在の人物、団体とは関係ありません。

この中途半端な関係を誰が許してくれるのだろうか

昨年破談した元婚約者といまだに住まいを共にしている。

このことを話すと皆、面白いくらいに顔をしかめ、眉間にしわを寄せ、どこかで口裏合わせた模範解答かのように「それは良くないよ」と言う。

原因は私にあるのはわかっている。説明が足りないのだ。そう思って「療養のため」「金銭の都合」「感情の整理のため」などと付け足すが、次の応答も皆一様に「最後はあなたが決めることだけどね……」と言いつつ顔を曇らせる。私を尊重しているようで、君たちの意見もきちんと顔色に出しているあたり、君たちは上手に世の中を渡っていけるのだろうと思う。

そもそも、別に嫌いになって別れたのではないのだ。私が他に優先したい人ができたと彼に伝えて別れることになった。それだけだ。彼が私にとって大事な人であることに変わりないし、おそらく今後それが揺らぐこともないだろう。

そうやって出来上がった中途半端な関係がいまの私たちだ。

この関係性をより複雑にさせるのが、その「あなたより優先したい人」なのだけど、これもまたややこしい。むしろややこしいままにしておいてもらった方がややこしくなかった。

しばらくのあいだ曖昧に付き合っているのかいないのか、ふわふわした関係でいたのだが、彼は律儀に告白をしてくれた。告白をされたのなんて初めてなんじゃないかと思う甘美な響きだった。もしかしたらこれまでの人生「好きです」と言われることはあっても「付き合ってください」とは言われたことはなかったかもしれない。

そんな経緯で晴れて彼氏ができた。好きな人と付き合えたのだ。人生二度目の快挙だった。初回は元婚約者だった。

しかしながら未だに元婚約者と住んでいる。そのことを伝えられていない。私の中で整理もついていない。なんの整理って、今後、誰とどう生きていくか、まだ考えられていない。

端的に言えば「私の実家に元婚約者と住んでいるのですが、先日知り合った男性に恋に落ち、めでたく恋仲になりました。」と言ったところである。確実に悪いのは私だ。

元婚約者とは性的関係がない。これは彼の人に恋に落ちる前からそうだった。具体的に伝えることがあったかなかったか記憶が曖昧だが、結局異性として別の人を選んだ理由に少なからず含まれていただろう。

私の実家には弟も住んでいる。性的関係がないとなると多少距離感の近い弟のように感じることもある。そのためか、当人としてはあまり彼氏に対する罪悪感もない。しかし彼氏が同じことをしていたら大いに失望すると思うので、皆様のリアクションも十分に理解できる。倫理観が欠如しているのは私だ。

この関係は登場人物の誰も幸せにならない。がんじがらめにしてしまったのは私だ。手放すべき時に手放せなかったし、手に入れられるものに貪欲だった結果がこれだ。でも私は手放したくもなかったし、どうしても手に入れたいと思ってしまったのだから仕方がない。

きっと彼氏がこの記事を見たら、静かに失望してどうして黙っていたのか、同じことをしたら嫌だと思わないのか聞くのではないかと思う。彼は聡明な人だから。もちろん嫌だ。でも私は、大事な人を捨てることはできなかったのだ。申し訳ない。きっとその会話の先には「聞いていればこんな関係にはならなかった」という結末が待っているだろう。そんなことは聞きたくないという私の醜い欲求がまた判断を鈍らせ、正しさを失っていく。最低だ。挙句自己嫌悪に陥って体調不良になるのだから目もあてられない。

そもそも私は簡単に人を好きになっても嫌いになれない性分なのだ。あまり酷なことを言わないでほしい。そして、私の大切な人を悲しませるようなことは誰も言わないでほしい。君たちは私たちのなにを知っているのか。少なくとも私の大切な人たちを傷つける行動をしているのは間違いなく私なのでなんの説得力もないのだけど。

この関係は誰が許してくれるのだろうか。いっそ誰にも許されずに刺されてしまったほうがいいのではないか。ひとりになるのは嫌だ。そうなるくらいなら、誰かに刺し殺して欲しいと毎日祈っている。